昨日、長年の同志・キューピーこと藤原由香里さんの働く小学校にお邪魔させてもらった。ここのところ、続けて10年来の仲間の教室や学校にお邪魔する機会に恵まれているのだが、もはや「よく今まで現場を見もせずに、外からできること…とか言ってたな自分」と思うレベルで「その現場の状況理解」が進む。いくら一生懸命イメージしようとしても、話を聞くだけでは全然わかっていなかった。まさに百聞は一見にしかず。いやー、恥ずかしい。
藤原さんの学校は今年から京都府から2年間の研究指定を受け、「演劇的手法を用いた主体的・対話的で深い学び」の実践研究を行なっていて、彼女はそれを中心になって進めている。演劇的手法、表現を通した学びの場づくりにおいてはすでに日本の第一人者と言ってもいいと思う。
2月には公開授業・研究発表会があり、私は行けなかったのだが(ほんっとーーに残念!)私の知り合いも多くの方が参加され、授業はもとより校内研究とその発表会の進め方に対しても「すごい」「面白い」という反応がFB上で飛び交っていた。そして、やっと行けた昨日だったわけだ。
授業や学校をライフワークとして撮り続けているカメラマンの平井さんと共に訪問。
給食を食べ、5時間に6年生の授業を見学。6時間目〜放課後にかけ、子どもたちと先生のインタビューという流れ。
授業は、道徳。ココロ部というNHKの番組(アンジャッシュがやってるやつ)に出てくるストーリーを素材にして、「葛藤のトンネル」というスタイルで行う。教室にいた子どもたちは高学年特有の重い感じがあまりしない、素直なかわいい6年生だった。机はコの字(?)で真ん中が通れるようになっている。担任のSさんがT1、藤原さんがT2で授業が始まる。
ストーリーはこんな感じ。
美術館の警備員のコジマくん。ある絵の展覧会の最終日。閉館時刻を過ぎてやってきたおばあちゃんと娘のお客さんの入館をルール断るが、実はおばあちゃんにその絵は死んだ夫との思い出の絵だった。入院しているおばあちゃんはなんとか外出届けを今日もらってやってきた。残りの寿命は短く、おそらくこれが最後の外出になる。本当は間に合うはずだったけれど、電車が止まってこの時間になってしまった。コジマくん、入れてあげたいが、ルールを守らないとクビになるかも。しかもさっき同様に閉館時刻を過ぎてから来たカップルは断ったし…。さあ、おばあちゃんを入れてあげる?入れないで断る?
子どもたちは、自分の意見を考えつつ、「入れてあげたほうがいい」「いや、入れるべきではない」の2つの立場でワークシートの吹き出しに言葉を書き込む。葛藤のトンネルは、2列に並んで「トンネル」をつくり、順々に「両方の立場からのアドバイス」をしてくるその間を、本人(役)の子どもがアドバイスを聴きながら通り抜け、最後にどちらかを選ぶ、というもの。
グループでそれを共有し、並ぶ順番を決め、それぞれが言う言葉(アドバイス)を決める。コジマくん役の子が、小道具として担任のS先生がつくった警備員の帽子をかぶり、トンネルの前に立つ。現時点での自分の考えを話し、そして、クラスメイトのいろんな声(意見)を聞きながら少しずつトンネルを歩いていく。
「おばあちゃんにとってはラストチャンスなんだよ」
「おばあちゃんだけ入れてあげるのはえこひいきになるよ」
「クビになってもいいの?」
「入れてあげないときっと後悔するよ」
最後に黒板の2つの扉(おばあちゃんを入れる扉・入れない扉)の前で止まり、どちらかを選ぶ。そしてまたなぜそちらを選んだのか、今の気持ち・考えを語る。
これがすごくおもしろかった。扉の前で真剣に悩む。「どうしよう〜〜〜・・・・」という葛藤が表情に思いっきり出る。番組を見たり、読み物教材を読んで、考えを書いたり、グループで話すだけよりも、こういう場をつくって役になって感情移入して考えることで、グッと本気になる。
6チームあって、2チームずつ3回やったのだが、2回目は新人警備員の藤原さん(という設定で先生)が「先輩にルールルールって言われるんですけど、なんで守らないといけないんですか?ルールをどう考えたらいいのかを踏まえてアドバイスしてもらえますか?」とオーダーが。さらに、3回目は、「普段みんなも学校でルールがある中で過ごしていると思うけど、できたら自分の普段の経験・生活と結びつけてアドバイスしてみて」というオーダーが追加された。
「ルールは守るためにあるんじゃなくて、守れる(いい)ルールにしたほうがいいから、入れてあげたほうがいい」
「平等じゃないのはやっぱりよくないよ」
「みんなが幸せになれるためにルールはあるし、おばあちゃんが幸せになれるほう(入れてあげる)がいいと思う」
「日本はルールを守って人に迷惑かけないことを大事にしてるから一人のために崩すのはよくないんじゃない?」
アドバイスに説得力があった時には拍手が起きたり、どちらかを選んだ時に「おおお〜!」「そっちかあ!」と声があがったり。警備員役の子も、トンネルをつくってアドバイスをする子も、周囲で見ている子も、頭も心もフルに使いながら考えている様子を、私もどきどきしながら見させてもらった。
子どもたちの反応を1つ1つ受け止めながら進められる担任の先生のファシリテーション。息の合った、丁寧に打ち合わせをして流れを考えたことが伺えるチームティーチング。とても素敵だと思った。具体的に2つの扉が目の前に見えていてどちらかの扉に触れる、というセッティングや、帽子を用意している点など細部の工夫も生きていた。これらがあるのとないのとでは全然違った活動になることが容易に想像できる。教室の空間の使い方も見事だなあとつくづく感心してしまった。
* * *
「葛藤のトンネル」は、「善悪の回廊」という手法のアレンジとして美濃山小学校で開発されたもの。このように道徳で使う他にも、クラスのみんなの「お悩み相談」として、AorBで揺れている悩みをみんなでボックスに入れ、トンネルのかたちにしてアドバイスをもらう・・・という特別活動的な使い方や、国語の教科書の文学作品「海の命」の読みを深める(主人公・太一は父の仇である大きなクエと海の中で対峙するも銛を打つことをやめるのだが、その心情を、太一の自問の形式で葛藤のトンネルを活用して考える)のに使ったり・・・というふうに、活かし方のバリエーションがあるらしい。
とっても印象的だったのは、インタビューをさせてくれた6年生のうちの一人が、「海の命」の演劇的手法を使った授業の中で、なぜクエの目の色が変わったのか・・・というような対話をする中でその友達との関係が変わった、もっとその子のことが好きになった、と言っていたこと。私は、一つのことについて友達と一緒に考えて、その視点の違いにおどろいたり、おもしろい!と感動したり、一緒に新しいことに気づいて、一緒に考えて学びが豊かになった経験は正直大学に入って初めてしたように思う。なので、それってすっごいなぁ・・・と感動してしまった。
ディベートと比べて、勝ち負けという感じになりにくいことや、論理だけではなく感情も扱えること、また個人的なテーマにも社会的なテーマでもやれること。広がりうる、面白い取り組みだと感じた。ぜひ自分でも使ってみたいし、いろんな教室でやってみてほしい。